写真/gettyimages
0時が近づくにつれて、街の人々は「終電」が気になりだす。
帰ろうか、残ろうか。時計を見ながら正解を考える。甘酸っぱい思い出も、切なく悲しいできごとも、思えば全部「終電」がきっかけだった。
そんな、誰もがひとつは持っている終電にまつわる物語「#終電と私」を集めてみました。
あと、3分。
終電に乗るために、もう来ることのない下高井戸の街を全力で走った。
冬と春が混ざり合った柔らかい空気が頬にぶつかる。肺が痛くなってきて、マフラーを取って手で握って走った。駅伝の襷みたいだな、と一瞬思う。
見慣れた街並みが視界の端を流れていく。
思い出に浸りながらゆっくり歩きたい気持ちもあったけれど、この終電を逃してしまうことは絶対にしたくなかった。
***
後輩が部屋を引き払うことを、サークルのグループLINEで知った。学生時代から長い間仲間たちの溜まり場になっていた下高井戸のあの部屋。
なくなっちゃうんだ、くらいにしかそのときは思わなかった。男子勢はかなり入り浸っていたけれど、私はそんなに行かなかったし。
ただ、この春卒業するサークルの後輩たちに送るビデオメッセージを、引き払う直前のその部屋で撮ろうということになった。
久しぶりに入った部屋は、ダンボールだらけだった。ついさっきまでお母さんが来て荷造りを手伝っていたらしい。
写真/gettyimages
まだまだ散らかっていたけれど、布団がわりにしてペラペラになっていた巨大なクマのぬいぐるみとか、眠い目をこすりながら遊んだスマブラとかが箱に詰められて姿が見えなくなっていることに気が付いて、本当にこの部屋はなくなってしまうのだなあと思った。
2年前の春、卒業したばかりの私が見たら泣いちゃうかも。
あのころはサークルの仲間たちのことが馬鹿みたいに好きで、大切で。
だからこそ、少しずつすれ違ってばらけていく未来が死にたくなるくらいにイヤだった。でも、いまの私は泣かない。大丈夫になることを知っているから。
あーでもない、こーでもない、と何度もビデオメッセージを撮り直す。
気がつくと終電の時間が迫っていた。今日は帰ると決めていたから、意を決して「次で帰る!」と宣言をする。よし、とみんなが気合を入れてまあマシなんじゃないかというビデオが撮れた。
慌てて帰り支度をする私に仲間たちがばらばらと挨拶の声を投げる。おやすみ、と声を投げ返して外に飛び出た。終電まであと、5分。
写真/gettyimages
そんなに来なかったはずの部屋、街。もう二度と来ることはないと思うと浮かぶ出来事がたくさんある。
サークル終わりのたこ焼きパーティー、終電を逃すまで飲んで死んだように眠った夜、少し遠いピザ屋まで歩いて買いに行ったことや、駅前のカラオケで朝まで騒いだこと。
どんなに好きな場所でも、ずっと同じままでなんていられない。
私たちは年をとるし、少しずつ変わっていく。
でも。
いまでもときどき集まってお酒を飲むよ。職場が関西になった仲間たちもたまには帰って来るし、代表だったあいつと後輩は今度結婚するんだ。
私も新しく好きな人たちと出会ったよ。その人たちに会うために、終電で帰ろうとしている。
ねえ、聞こえるかな、2年前の春の私。生きててよかったよ。
息を切らして、ホームに滑り込んできた京王線に飛び乗る。
さらば、下高井戸。いままでありがとう。
アベハルカ短歌なふたりぐみ"meri-kuu"の右側。短歌を作ったり、写真を撮ったり、ZINEを制作したりしています。Twitter:@harukasabe
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