ふらっと入った酒場。そこにはひとりの女性がいた。
飲み干したら、慣れた感じで次の酒を頼む彼女。
アルコールを体に補充しながら、何を考え、迷い、想っているのだろう。
ひとり飲みをしている彼女らの脳内にちょっとお邪魔してみましょう…。
渋谷のクラブ、2:31。
レッドブルウォッカを飲みながら、私は「大人になること」について考えていた。
28歳・独身の私の毎日は、身軽だ。「誰かのため」ではなく「自分のため」に生きている。
「それは悲しいことだよ」と憐憫の眼差しを向けられることもあるが、ひとりの毎日は、笑ってしまうくらい自由で、底抜けに楽しい。
いつの間にか結婚した元彼は「俺はずっとしがないサラリーマン。不安が95%だよ」と困ったように笑いながらも、妥当な責任感を携え、きちんとした「大人」として生きているように見えた。
私は、ちゃんと「大人」になれているのだろうか。
いろいろなことがわからなくなったとき、ふと思い立ってクラブに行く。クラブでは、年齢も立場も、ひとつの記号にしか過ぎない。その事実に時折、ひどく救われるのだ。
***
渋谷西武の小綺麗な化粧室で真っ赤なルージュをひと塗りし、道玄坂をわしわしのぼる。
ラブホテルのネオン、軒を連ねる居酒屋、するりと横切るタクシー。
さまざまな光を尻目に、私は夜の闇にすっと溶けてゆく。アルコールランプの炎が、蓋を閉めるとほんの一瞬で消えてしまうように。
端の部分が少しだけ剥げたクラブの重厚な扉を開けると、さまざまな騒音がぴたりと止み、瞬く間に轟音に変わる。
体を震わす低音が、ドンドンと響く。
七色の照明とミラーボールを数か月前にも見たはずなのに、私はにわかにうれしくなる。「この場所を、ずっと待っていた」と思う。
胸を高鳴らせながらドリンクチケットを金髪の女性に渡し、レッドブルのプルタブをぷしゅっと開けてウォッカの入ったグラスに注いでいると、とんとん、と肩を叩かれた。
「ねぇ、タイムテーブルどこ?」
振り返ると、ヒッピー風の女性である。少しだけ日に焼けた、キャミソール1枚の肌が眩しく、まつ毛はくるりと長い。思わずまじまじと見つめてしまう。
「あっち、です」
ドギマギしながらタイムテーブルの掲示がある方を指し示すと、女性はにこっと笑って「サンキュ」と言いながら、続ける。
「私、人口100人のインドの村に住んでてさ。全員顔見知りだから仲良くなっちゃって。今日も友だち連れてきたんだよね。紹介する」
ありがとうございます、と答える間もなく、くるりと身を翻しながら、女性はどこかに消えてしまった。
軽やかな身のこなし。そんな女性を見て思う。
本来、あんな風に生きてもいいのかもしれない。流れるように、漂うように。
たどり着いた先に、何かが待っていることだってある。
そのペースは、きっと人それぞれ。だから、それでいいんだ。無理して理想の「大人」を演じる必要なんてない。
気がつけば、先ほどの女性が、「インドの村で出会った友人」を連れて、にっこりと笑いながら立っていた。
「この子。イシャンっていうんだ。太陽って意味なんだって」
ゾウのようにやさしい目をした男性が微笑む。楽しい夜になりそうだ。
「お姉さん、踊りませんか?」
「オッケー、行こうか」
私たちは、ダンスフロアに飛び込んだ。夜は、まだまだ長いのだった。
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