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誰でもいいからそばにいてほしかった #今夜もお酒を飲みながら

今夜もお酒を飲みながら

ふらっと入った酒場。そこにはひとりの女性がいた。

飲み干したら、慣れた感じで次の酒を頼む彼女。

アルコールを体に補充しながら、何を考え、迷い、想っているのだろう。

ひとり飲みをしている彼女らの脳内にちょっとお邪魔してみましょう…。

渋谷、22:00。

華奢なグラスに入ったスパークリングワインをくるくると回しながら、私は「恋愛」について考えていた。

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写真/gettyimages

随分、ちゃんとした恋愛をしていない。というか、するのが面倒くさい。

人と「きちんと」付き合うには、体力がいる。デートを重ね、相手のことを知って、自分のことを知ってもらって。

楽しいことはもちろんあるけれど、同じくらい、傷つくことだってたくさんある。期待しすぎたり、されすぎたり。

いままで順調に釣り合っていたはずの天秤が、不意にバランスを崩し、がしゃん、と落ちて粉々になる。

そんなことが何度も起こり、心底疲弊した私はあるとき、金曜日の渋谷に繰り出すことを決めた。

どんな相手だっていい。とにかく「誰か」と一緒にいたい

金曜日の渋谷は、ほかのどんな平日よりも騒々しい。

「この日に照準を絞りました」とばかりに道ゆく女性を品定めしながら歩くサラリーマン。

手足がすらりと伸びた、陶器のような肌のモデルと思しき若い青年。

ワンカップ大関片手に顔を赤くしたおじいさん。

年齢も、立場もさまざまな人たちが、スクランブル交差点ですれ違い、雑踏に吸い込まれて消えてゆく。

そんな場所にゆけば、少しは元気が出るだろうと思ったけれど、逆だった。

けたたましいサイレン、まばゆいばかりのネオン、どこからか大音量で聴こえてくるヒットチャート。

思わず目を細めてしまうくらい明るい光景が目の前に広がっているのに、自分ひとりだけ、暗く、誰の声も届かない海の底にいるようだった。

世のなかには、こんなにたくさんの人がいる。なのに、どうして私には交わる人がひとりもいないのだろう。

このままだと、浮上できない。誰か、助けて。

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写真/gettyimages

知らぬ間に、泣いていた。馬鹿みたいだ。

いい歳した女が、幸福な金曜日の渋谷でひとり泣いているなんて。

そんなとき、「おねーさん、どうしたの? 終電まで、俺と飲まない?」と声をかけられた。

くるりと振り返ると、強い言葉とは裏腹に、気弱そうな男性がへらへらと笑いながら立っている。

いつもだったら、と考える。いつもだったら、そんな誘いは即座に断り、ひとり電車に揺られて帰宅していただろう。

けれど、その日は違った。どんな相手であろうと、「誰か」と一緒にいたかった。

だから、終電を逃した。大衆居酒屋であおったむやみに濃い酒の味と、名前も知らない、もう二度と会うことはないであろう男性のざらりとした肌の感触だけが、翌朝まで生々しく残っていた。

気づいたら、中毒のようにそんな夜を繰り返していた。やめられなかった。

いや、やめることができなかった。

特定の相手をつくらなければ、人生はこんなに気楽で楽しいのだ、と思った。

ひととき、寂しさが紛らわせれば、それでいい。それで十分、満たされている。

そうか、人と関わろうとしていなかったんだ

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写真/gettyimages

そんなある日、いつものように金曜日の渋谷にふらりと出向いた。

今日も、また同じ夜を迎えるのだろう、とぼんやり思いながら、人でがやがやと賑わうバルの1席だけ空いたカウンター席に腰掛ける。

スパークリングワインの泡がぷつぷつと浮いてきれいだ

小粋なマスターがさり気なく入れてくれた小さな苺もかわいい。思わず頬が緩む。

私の後ろでは、若い女性グループが下世話な恋愛話をしており、わあわあと騒々しい。

ひとりで飲むには、向かないお店だったかな。スパークリングワインを飲み干して、店を出ようとしたそのとき、女性のうちのひとりが発したフレーズに、足が止まった。

「てゆーかさ。何も残らない、っていつになったら気づくの? いつまでそんなことを繰り返すの?

頭をガツンと殴られたような衝撃が走る。

自分と違う「他人」と向き合うのは、苦しい。

育ってきた環境も、考えかたも、好きな食べ物だって、ときにはひとつも合わないことがあるから。

けれど、私は…。

なおも騒ぎ立てる女性たちを眺めながら、思う。

私は、あきらめていただけなのではないか。誰かと、共に生きてゆこうとすることを。

交わる人がいなかったんじゃない。交わろうとすることを、放棄してきたのではないか。

私にはまだパワーがある。きちんと他人に向き合いたい

腕時計を見る。23:30。もう間も無く、終電の時間だ。今日は、まっすぐ家に帰ろう。会計を済ませ、店を出る。

久しぶりに、風を切りながら夜の街を全力で走った。自分にも、こんな風に走れる力がまだまだ残っていたことに驚く。このパワーがあれば、私は無敵だ。

もう1回、「きちんと」他人と向き合ってみよう。

1度きりで終わってしまう幻にすがるのではなくて、これからは「誰か」と共に生きてゆこう。生きてゆける人に、出会ってみたい。

終電車のアナウンスが、ホームに鳴り響く。

あの日見た渋谷のネオンが、いまは深海を照らすひと筋の光のようだった。

>>連載「今夜もお酒を飲みながら」を読む

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