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ブランド品もワインもいらない。私が欲しかったのはたった一言だった

「クリスマス」と聞いて、何を思い浮かべるだろう。

サンタ、ツリー、オーナメントに、靴下。

もしくは、初めての恋人と過ごした聖夜や、暖房の効いたオフィスで残業した思い出だろうか。

グリッティでは、クリスマスまでの6日間、6人のライターによるさまざまなクリスマスの物語をご紹介します。

テーブルの上に並ぶ、手作りのオードブル、いつもよりもちょっと高いワインと、隣にシャンパン。

「ソファの下、見てごらんよ」

そう言われて足もとをのぞくと、ケイトスペードの大きな袋が横たわっていた。

私はその全部を、「いらない」と思った。

***

恋人が長く働いていた会社を辞めたことを知ったのは、彼の口からではなかった。

12月23日の昼過ぎ、彼の会社から(当時、彼の会社は私のクライアントで、彼は私の担当者でもあり恋人でもあった)メールが届き、そこには彼が会社を退職したので別の担当者が引き継ぐという内容が書かれていた。

私は少し脈が早くなるのを感じながら「どういうこと?」とだけLINEを送った。

彼からはすぐに「バレたかw」とだけ返ってきた。

20181225_christmas02

写真/gettyimages

「辞めるそぶりとか一切なくて。むしろ今年は24日も25日も平日だから別の日にデートしようね、って直前まで言ってたくらい。いつもそう、すべてが事後報告で、付き合ってるけど何も相談してくれることがない…」

「会社員じゃなくなったから、24日も25日も空いてるけどどうしたい?」という彼からのLINEに対して「クリスマスイヴはもう友だちと約束してるから」と返した。

当然のように私が24日を空けていると思っていることに腹がたった。

まるで気に留めないような様子で「じゃあ、友だちとのご飯のあとにうち泊まりにおいでよ」とだけ返ってきた。

私は、家でひとりで待っている恋人をよそに、ビール片手に友だちにグチをこぼしていた。

***

朝起きて、昨日残したオードブルを朝ごはん代わりに食べながら、「本当は温泉宿も予約してたんだからな」と、少しいじけるようなフリをして、彼は言った。

そうか。私は、まったくうれしくなかった。

友だちとの飲みのあと、彼の家に行った。一応、プレゼントも持って。

彼は、手作りのオードブルを用意して、ワインとシャンパンを並べて、プレゼントを隠して待っていた。

そのどれもが私の心に響かなかった。よろこばなきゃ、と思うのに、どうしても顔がこわばった。

なぜ、メイクを大してしない私に化粧ポーチをくれたのだろう。

なぜ、私の予定も聞かずに温泉宿を先に予約しちゃったのだろう。

なぜ、この間私の歯ブラシがシンクの下に隠されていたのだろう。

なぜ、夜中2時に「いまから泊まってもいい?」という女性からの着信が入るのだろう。

なぜ、見覚えのないアイプチが洗面台にあったのだろう。

なぜ、彼は私のことだけを見ていてはくれないのだろう。

なぜ、私はこんな男のことを、それでもまだ好きでいるのだろう。

私が怒ってるのは、会社を黙って辞めたことではない。

もういっそ嫌いになりたい、と思いながら、「今日どこ行きたい?」と聞かれてすぐに「しながわ水族館」と答えてしまう自分がまたイヤだった。

20181225_christmas01

写真/gettyimages

水族館は、楽しくもつまらなくもなかった。魚が泳いでいた。

タバコを吸いに行くから、と喫煙所に彼が行っている間、私は水族館前の手すりに前のめりになりながら、水辺を眺めていた。

好きだけど、つらいことばっかりだ。

ふいに、そこそこの大きさをした鳥が羽ばたいてくる音がした。私の真横の手すりに乗り、顔を合わせる。

慰められてるみたいでしゃくに触るけど、でも、ちょっとした奇跡のような瞬間に心が踊る。

飛び立つ鳥の後ろ姿を見送り振り返ると、彼が吹き出しそうな表情で私を見ていた。

私はとっさに「見てた?」と聞いたら、まるで小さな子をあやすように「見てた見てた」と言う。そして「行くぞ」と、歩き出す。

追いかけないと、置いていかれてしまう、そんなスピードで歩く彼の背中を見ながら、「見てた見てた」という彼の言葉が頭のなかでリフレインする。

私、それが欲しかった! ずっと、それが欲しかった!

ツンと冷えた空気のなか、そう言い出したくなる気持ちをおさえたら、なぜだか涙がこぼれ落ちそうになった。

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園田菜々
記事を書く仕事をしています。今は雄のハリネズミに恋している。
Twitter:@osono__na7

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GLITTY編集部

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