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結婚だけが女のしあわせじゃないでしょ #今夜もお酒を飲みながら

今夜もお酒を飲みながら

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ふらっと入った酒場。そこにはひとりの女性がいた。

飲み干したら、慣れた感じで次の酒を頼む彼女。

アルコールを体に補充しながら、何を考え、迷い、想っているのだろう。

ひとり飲みをしている彼女らの脳内にちょっとお邪魔してみましょう…。

新宿、22:26。

グラスになみなみ注がれた本日3杯目のズブロッカをぐいっとひと口飲みながら、私は「結婚」について考えていた。

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写真/gettyimages

28歳、ごくごく普通のOL。いわゆる「結婚適齢期」と言われる年齢に差し掛かってきたが、私には恋人がいない。

正直に言うと「欲しい」と切望する気持ちも、いまはあまりない。

周囲の友人は、ぽつり、ぽつりと結婚してゆく。 あるときは、小中高時代の友人から。あるときは、大学時代のサークル仲間から。

「入籍しました! 結婚式をするので、ぜひ来てね」

そんな幸福な報せが届くたびに、色とりどりのスタンプや祝いの言葉が飛び交い、いままで沈黙を守ってきたLINEグループはにわかに色めきたつ。

「おめでとう!」

「式場はどこ?」

「ていうか、会うの1年振りじゃん」

私も例に倣ってそんな一文をLINEグループに投下しつつ、友人の輝かんばかりの未来に思いを馳せながら、ふと我に返り、自身に問う。

結婚って、何なんだ。

もちろん、恋人がいなかったわけではない。4年間付き合った彼氏とは、ときたま結婚の話も出ていた。

犬を散歩させている夫婦とすれ違ったとき。

こじゃれたカフェに並んでいた雑誌の物件特集をめくっているとき。

すやすやとベビーカーで眠る、ふわふわの天然パーマがかわいい赤ちゃんを見かけたとき。

「将来は犬を飼おうか」

「マンションと一軒家だったらどっちがいいかなあ」

「子どもの名前はどうする」

ときに真剣に、ときにふざけながらそれらの質問にひとつひとつ答え、笑った。

そのたびに、この人と一緒に「生涯楽しく、しあわせに暮らしましたとさ」なんて未来が待っていたらいいなあ、と思った。

「結婚 = しあわせ」が正解なのか

そんな矢先に、彼の浮気が発覚した。知らんぷりして、黙ってそのままやり過ごせていたら、いまごろは結婚していたかもしれない。

けれど、私はどうしても許せなかった。許せなくて、泣きながら彼をなじった。

散々、という言葉はこんな日のためにあるのかも知れないなどと馬鹿なことを思った。

「しあわせな未来」の方程式が詰まった分厚いウェディング雑誌は、可燃ゴミとともにゴミ置き場に運んで捨てた。

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写真/gettyimages

「結婚」という言葉を聞くたびに、そんな記憶がフラッシュバックしてたまらなくなった私は、ある日、夜も更けたゴールデン街の小さな酒場に足を踏み入れた。

ゴールデン街は、ほかのどんな酒場とも違う、と私は思う。

うまく言えないけれど、いつ訪れたって、すべてを許容してくれるような雰囲気がゆるりと漂っているのだ。

まだ月曜日だけれど、明日のことはすべて無視してお酒を飲むことを決めた

ひっそりと佇むその店は、カウンター席だけのこじんまりとした空間。

きいきい軋む扉を開けると、何かを炒める香ばしい匂いが鼻をかすめる。その匂いにつられ、大好きなアヒージョとバケットをオーダー。

アンチョビの効いたマッシュルームと、こんがり焼けたバケットがとてもおいしい。

思わず、ジントニックを一気に飲み干す

女ひとりで酒を飲んだっていい。いまの私はそれがしあわせ

すると、隣から「いい飲みっぷりだねぇ」と声をかけられた。40代半ばだろうか。いかにも酒好きといった風貌の、恰幅の良いおじさんである。

顔いっぱいに広がる彼の笑顔を見て、思わず笑みがこぼれる。

「お酒が好きで。今日は飲もう、と心に決めて来たんですよ」

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写真/gettyimages

陽気なおじさんは「それじゃあ、これも飲んでみな」とぐいっとグラスを差し出してきた。

桜餅のような甘い香りが口いっぱいにふわあと広がるズブロッカと言うそうだ

「これはおいしいですねぇ」とごくごく飲んでいると、気をよくしたおじさんは「今日はいくらでも飲んでいいぞ」と、がははと笑った。

3杯目のズブロッカを飲んでいると、おじさんがぽつりとこぼした。

「ひとりでこんなところに来るなんて酔狂だね」

たしかに、酔狂である。月曜日から、明日のことも忘れ、こんなところに来るなんて。

思わず目を伏せると、おじさんは続けた。

でも、それが楽しいんでしょ。なら、それでいいじゃない

顔を上げる。はっとした。そっか、それでいいのか。酔いでぼんやりとした頭で考える。

しあわせの形なんて、人それぞれだ。

いまの私には、こうしてふらりと酒場に出向き、とっておきの酒を飲むような"ひとり"を楽しむ時間が何より必要で、大切なのだった。

「かくあるべき」なんてどうでもいい。ましてや、形だけを追い求めるばかり、いま目の前に転がっているしあわせをみすみす逃すなんて、バカみたいだ

私は、私のしあわせを、絶対に離したくない。いや、離してたまるか。そう思った。

もやもやと悩んでいた気持ちが、少しだけ晴れた。

今日は、帰ったら、ゆっくりとお風呂に浸かろう。温かい紅茶を飲もう。

そんなことを考えている間に、おじさんはすべての会計を済ませ、手を振りながらいつの間にか立ち去っていた。お礼を言う間もなかった。

ぼわぼわと回転する頭で、これが酩酊ってやつか、なんて考えていた。

少しだけ開いた窓の隙間から、ふわりと風が舞い込んで来た。もうすっかり、冬なのだった。

ふつかよいのタカハシ

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